嵐とみる『キング・オブ・エジプト』

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『キングオブエジプト』によってIQを溶かされた居酒屋嵐の面々。遅れてきた櫻丼くんは彼らを救うことができるのか。

ミノ「超合神ビーーーム!!!!」

相場「双翼バリアーーー!!!!」

ミノ「バリア貫通ーー!!!!はいー相場くん死亡」

相場「は?神の翼は無敵だから貫通とかしませんー」

ミノ「太陽神ラーの杖は世界最強だからするの!!はい論破ー」

ぢゅん「スーパーサイヤ神トルネーード!!!!」

櫻丼「……えっ、なんか今日このテーブルの体感IQ低くない?どうしたの?」

リーダー「来るの遅いよ櫻丼くん」

櫻丼「ごめん、パパの知り合いと会食があってさ…。なに、みんなもう出来上がっちゃってるの?」

リーダー「いや、これはアルコールのせいじゃない。みんな『キングオブエジプト』のせいなんだ」

櫻丼「なんだって?」

リーダー「実は今日、相場くんが「『ハムナプトラ』観ようぜ!」って言うからみんなでTSUTAYAに行ったんだけど…」

櫻丼「相場くんほんとうに『ハムナプトラ』ばっかり観るね」

リーダー「でも『ハムナプトラ』は貸出中だったんだな。それで、『キングオブエジプト』のジャケットがジェネリックハムナプトラだったから、それを見ることにした」

櫻丼「まあ借りた経由はどうでもいいよ。それで?」

リーダー「最初は良かったんだ。『ハムナプトラ』っぽかったし。どことなく『インディージョーンズ』とか『アラジン』っぽさもあった。ハリーハウゼン時代の『タイタンの戦い』みたいな、あっけらかんとした雰囲気も好感が持てた。だが再生して15分を過ぎたあたりから、みんなに異変が起こり始めた」

櫻丼「異変が…?」

リーダー「そうだ。わかるだろ?あれを見てみろ。みんな、脳が溶けちまったんだ。おいらがああならなかったのは、ところどころ寝ていて真剣に観ていなかったからだよ。助かった…でなきゃ、俺もみんなみたいに、「俺は超合神だ!!」と叫ぶだけの、ヒトならざるものと化してしまっているところだった。虚しいよ、もう俺たちの声も、あいつらには届かないんだ…」

相場「黄金だ!!拾えーーー!!」

櫻丼「おい!それは黄金じゃなくてポン菓子だ!!居酒屋でポン菓子をばらまくんじゃない!!」

ミノ「王を讃えよーーー!!!!」

櫻丼「なんてことだ…全ては『キングオブエジプト』のせいなのか…一体、どんなストーリーだっていうんだ?人を狂わせるような話なのか?」

リーダー「うん、危険を伴うかもしれないが、俺が観ていた範囲で少しだけストーリーを解説してみるよ」

櫻丼「俺だって、今まで色んな映画を観てきたんだ。覚悟はできてる」

リーダー「よし、わかった…。『キングオブエジプト』はエジプト神話をベースにしているんだが、主人公は普通の人間の若者なんだ。まず映画は、この主人公、ベックが自分の若い頃を回想するスタイルで幕を開ける。彼は身体能力に恵まれているが貧しく、その才能を泥棒として発揮していた。そんなベックが、これから壮大な冒険をすることになる、ということを匂わせる出だしだ」

櫻丼「ここまではよくある感じだな」

リーダー「ああ、だがもうこの時点で恐ろしいことが始まっているんだ。何故、冒頭に回想を使ったと思う?」

櫻丼「そうだな…例えば、ラストに年をとった主人公が出て来て、「–それから何十年の時が経ち、私も遂にこの世を離れる時が来た、だが、私の冒険は私の子供達へ、そしてそのまた子供達へと受け継がれていくのだ…」的なエンドにすることで話に余韻を持たせる、っていうのが正攻法かなあ」

リーダー「そうじゃないんだ」

櫻丼「あ、やっぱりベタすぎたかな」

リーダー「この回想には何の意味もないんだ」

櫻丼「え…?いや、そんなはずは…。ハリウッドの脚本家が何の意味もないギミックを入れるわけがないだろ」

リーダー「ラストまで観ても、「主人公が語っている今現在」にこのストーリーがどう繋がっていくのかはほぼ語られない。回想形式とったことでむしろ「ベックはどうせ死なない」と緊張感を削ぐ効果をもたらしたぐらいだ」

櫻丼「うそだ…」

リーダー「まだ序の口だ。本編のストーリーに移ろう。ざっくり言うと、この話の目標は、暴君であるセトという神の支配から平和な世界を取り戻すことだ。そして、それが出来る力を持ってるのはセトの甥っ子のホルスという神だという。この、TRPGサークルのカリスマになったショーンビーンみたいなルックスの神は…」

櫻丼「まったく目に浮かばない」

リーダー「…しかも普通の人間に対して絶妙にクソコラっぽい大きさのこの神は、以前、セトに目玉を奪われて以来、力が発揮できない状態にある」

櫻丼「ああ、片目のホルスという逸話は、エジプト神話で聞いたことあるな。つまり、ホルスの片目をセトから奪い返すっていう試練が、この話のメインなわけだ」

リーダー「しかしそこは「ベックには泥棒の才能がある」という設定の一点ごり押しによって序盤にあっさりクリアされる」

櫻丼「お、おう…そうか…。でも、そもそもなぜ一介の人間ベックはホルスの目玉を自力で奪い返そうと思ったんだ?危険すぎない?そこにはなにか強烈な動機付けがあるのか?」

リーダー「ベックにはザヤという恋人がいて、セトの神殿の建築家のもとで緩めな待遇の奴隷になっていたんだ。彼女の手引きにより、ベックは神殿の内部構造を知ることができた」

櫻丼「でもそれは脚本の動機であって、キャラクターの動機でははないでしょ」

リーダー「まあ直接的には恋人のザヤに、「あんたならできる!」と焚きつけられたからだ。冒頭で「人間は愛のためならなんでもできる」という説明台詞をしっかり入れてあるから、オッケーなんだ」

櫻丼「そうか…まあ…そうなんだな…」

リーダー「その後、ベックは奪還した片目をホルスに返すが、ベックがセトの神殿の内部構造に通じているという利用価値を認めたホルスは、セトとの戦いに道案内として彼を連れて行くことにする」

櫻丼「そうか…まあ…そうなんだな…」

リーダー「櫻丼くん!考えるのをやめちゃだめだ!5秒以上考えるのをやめたらあっちに持っていかれるぞ!」

ぢゅん「ナイル怒りの鉄拳ーーー!!!」

櫻丼「はっ、危なかった」

リーダー「安心してくれ、主人公がホルスに付いて危険な旅に出るのにはちゃんとした理屈がある。実は色々あってこの時点で恋人のザヤは死んでいる」

櫻丼「おお…」

リーダー「ベックは、ホルスの神の力でザヤを黄泉の国から連れ戻してほしい、という交換条件のもと、案内役をかってでるわけなんだ」

櫻丼「よしよし、話がわかってきた。セトの神殿は、神のホルスでも地図がないと困るような複雑な内部構造なんだな…きっとパズルみたいになっているんだ。そのパズルのキーとなる部分をベックは知っているということか」

リーダー「いや、彼は正直そこまでは知らない。ちょっと設計図チラ見したにすぎないからな」

櫻丼「そうなの…?」

リーダー「そして肝心の時にそれがバレることになる。ベックは、神殿の中枢部に至る入り口がわからないんだ」

櫻丼「なるほど、そこでホルスが「おのれ人間、俺を騙していたな」となって、主人公はピンチに陥るんだな」

リーダー「陥らない。主人公はヤマカンで入り口を当てる。周りのみんなも「ヤマカンで当たったんだーすげぇー」ぐらいのテンションでその場が収まる」

櫻丼「そうか…まあ…そうなんだな…」

リーダー「櫻丼くん!!」

櫻丼「大丈夫、ちょっと疲れただけだ。じゃあ、古代遺跡モノにつきものの謎解き的な要素はないんだな…」

リーダー「謎をかけるスフィンクスはちゃんと出てくるよ。”人が未来にのみその存在を信じているものはなんだ?”

櫻丼「未来にだけ存在すると信じられている…うーん、「明日」、とかじゃないよな、それじゃあふわっとしすぎだし…なんかもっと、「あーーーなるほどーー!!」みたいな答えがあるはず…」

リーダー「正解」

櫻丼「え?」

リーダー「明日で正解」

櫻丼「でも…」

リーダー「知恵の神でも2回間違えたのに一発で当てるとは…」

櫻丼「ちなみに知恵の神はなんて答えたの」

リーダー「秩序」

櫻丼「エントロピーの法則を考えたらむしろ未来のほうが秩序はない感じがするけどな…」

リーダー「ベックが「もっと人間の考えるように考えて!」と知恵の神に助け舟を出したので、やっと当てることができたんだ」

櫻丼「じゃあ最初からベックが当てればいいのでは?なんのために出てきたんだ知恵の神。時間の無駄すぎるだろ」

リーダー「櫻丼くんはこの映画に出てくる本当の無駄なシーンを知らないからそんなことが言える」

櫻丼「…それは、一体どんなシーンなんだ…」

リーダー「それは、ホルスとベックがめちゃ高い崖を頂上まで登りきった時に起きる。ベックがなにか生意気なことを言って、ホルスがそれに「黙らないと、この崖から突き落としてやるぞ」と応じる」

櫻丼「うん」

リーダー「それを聞いてベックは、なんと、振り返って、崖の高さを確認する」

櫻丼「うん…」

リーダー「わかるか?「お前、この崖から突き落としてやるぞ」、と言われて、崖の高さを、確認するんだぞ」

櫻丼「や…やめてくれ…」

リーダー「あれは1秒に満たない間だったかもしれないが、間違いなく2016年の映画で1番無駄なモーメントだった」

櫻丼「…お、おい、ちょっと待ってくれ。この映画は2016年の映画なのか?!」

リーダー「そうだよ。なんだと思ってたんだ。最新映画だぞ。ほら、このポスターを見てみなよ。この”世界20カ国NO1”というアオリを見てみなよ」

櫻丼「うっ…なんだこの黄金のまばゆいポスターは…目が…くらむっ…」

リーダー「櫻丼くん!」

ミノ「黄金だああ!!!!」

相場「ゴーーーールデン!!!!」

ぢゅん「聖闘士星矢ァァァァ!!!!」

櫻丼「…なんか別のまざってるな」

リーダー「無事か櫻丼くん」

櫻丼「ごめん…俺は途中からすっかり70年代B系アクション映画のつもりで聞いていたからショックが大きかった…」

リーダー「いやいやめちゃくちゃA級映画だぞ。脇を固めるのはジェラルドバトラー、ルーファスシーウェル、それにジェフリーラッシュ…」

櫻丼「うっ…豪華すぎる…。いや、わかったよ、あのさ、こういうのはやっぱストーリーだけ抽出してみてもしょうがないんだよ。アクションシーンが重要ってことなんだろ?ポスターにもCGがすごい!みたいに書いてあるぞ」

リーダー「櫻丼くんがストーリーが聞きたいって言うから話したんだぞ」

櫻丼「ごめんごめん、でもやっぱりド派手アクションが見どころなんでしょ?」

リーダー「というかそこは俺も寝ていたからよく知らないんだ。ミノたちに聞いてみるしかないな」

櫻丼「でも…彼らはもう俺たちの言葉を解さないんだろ…」

ミノ「解すわ!」

櫻丼「ミノ…人間の言葉がわかるのか?」

ミノ「普通にわかるわ。何勝手に人をゾンビ扱いしてんだよ」

櫻丼「よ、よかった。えっと、『キングオブエジプト』のアクションシーンがどんな感じなのか聞きたいなと思って…」

ミノ「うん、まずコブラがこう、ぐわーーーと出てきて、「うわーーーー!」ってなるだろ、それから巨大な闇ナマコっぽいやつが出てきて、「うわーーーー!」ってなるだろ、そして、セトがこう、超合体!!!!ってなって「うわーーーーーー!」ってなる」

櫻丼「うわー!のところのディティールをもうちょっと…」

ミノ「十分伝わるだろ?うわーーのニュアンスで表現してるだろうが」

櫻丼「いや全部同じうわーーに聞こえるんですが…」

ぢゅん「おい!!玉森くんdisってんじゃねーぞ!!!!」

櫻丼「disってないよ!そういうデリケートなところはdisらない主義だよ!」

相場「お前も超合神にしてやろうか!」

櫻丼「もうだめだこいつら…リーダー、俺先に帰っていいかな。自分の分の代金はここに置いていくから」

リーダー「櫻丼くん…それは金じゃない…ポン菓子だ…」

櫻丼「……はっ…」