嵐とみる『ジョン・ウィック:チャプター2』

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水溶性キアヌリーヴスとヤッピーの葬式

ぢゅん「俺はこう見えてもキアヌ・リーヴスにハマった時期があってね」

相場「ほう」

ぢゅん「90年代公開前後の彼の出演作はほとんど見てたんだよね」

ミノ「さすがイケメンの守護神ぢゅんくんじゃん」

ぢゅん「でさ、キアヌは『ギフト』では暴力夫、『ザ・ウォッチャー』では快楽殺人犯っていう意外な役もやってきているんだけど、基本的にその演技スタイルは”無”そのものなんだ」

櫻丼「無…」

ぢゅん「いやほんとに、無なんだよ、完全な。まるで水を演じているかのようなんだ。キアヌが今どんな感情なのか、それがどういう表情で、どういう声のトーンで、それがどういう方法の演技なのか、キアヌの中を覗き込もうとしても、そこに映るのは歪んだ自分の姿でしかないんだ。ちょうど水がそうであるようにね。だから、キアヌはいろいろアクションヒット作に出ていて、パブリックイメージ的には「正統派のハリウッドスター」なんだろうけど、実はものすごい特殊俳優だと思うんだな」

ミノ「それは例えば、ウィレム・デフォーみたいな?」

ぢゅん「どちらかっていうと、「東出昌大がこれからそうなるであろう枠」って感じかもしれないな…。まあそれで、俺はずっとキアヌの当たり役は『リトル・ブッダ』だと思っていて、それはあの完全に自我を抑制した演技がガチ仏の域に達しちゃっててヤバいからなんだけど、『ジョンウィック』はブッダ以来のハマりキャラなんじゃないかと」

櫻丼「ああ、映画自体は復讐譚の形をとっているけど、でもジョンウィックのやっていること自体は、ぜんぶが究極に鍛えられた機能としての行動であって、そこに自我が入り込む隙はないように見えるからね」

相場「でも、あんなすごい家にひとりで住んでるのはあんまり機能的じゃなくない?」

ぢゅん「それは機能とかっていうより、ジョン自体が、屋敷の亡霊だってことなんじゃないかなあ」

ミノ「俺が思うに、あのジョンの家としては機能してない家にしても、殺し屋同士のルールや儀式の妙な”粋さ”にしても…『ジョンウィック』のそこらへんに漂ってるあの微妙な虚無感って、ブレッドイーストンエリス感だなあって急に思ったんだ」

櫻丼「『アメリカンサイコ』とか、『レスザンゼロ』とかの?」

ミノ「それこそ、『ジョンウィック』には名刺交換バトルは出てこないけどさ、代わりに銃器ソムリエが最高にラグジュアリーに銃器のディテールを説明するシーンが出てくるよね。でもああいう”紳士の嗜み”とか”マフィアの仁義”とか”悪には悪のルールが”みたいなのってさ、もはや失われた時代のムードっていうか」

相場「ミノちゃんはイマドキの若者だから仁義とか大事にしないもんね」

ミノ「『ジョンウィック』の1の方でさ、劇中歌でマリリンマンソンが流れるんだよね。これは今回モーフィアスが出てきたみたいに、『マトリックス』の主題歌がマンソンだったことへの洒落なのかもしれないけど…、でも俺が驚いたのはさ、当時『マトリックス』で聴いた時のマンソンは凄い攻撃的なロックだったわけ。でもさ、『ジョンウィック』で聴くマリリンマンソンは完全にラグジュアリーなんだよね」

櫻丼「そういえばさ、ダントニオのお姉さんを暗殺しにいった先のパーティでも、『フィフス・エレメント』的なロックオペラというか、女ボーカル版MUSEみたいなバンドがステージをやってるシーンがあるじゃない。90年代だったらダークで趣味が悪い若者の音楽だったものが、今や完全にヤッピー音楽になってるみたいな。ヤッピーてのも死語だけどな」

ミノ「ああいう”シアトリカル”な雰囲気のバンドはもはや余裕のある富裕層好みになってるっていうね。マリリンマンソンもロックスター兼「繊細でダークな水彩画を高値で売ってる人」になったわけで。ただ『アメリカンサイコ』とか『悪の法則』とかはヤッピー層の亡霊を皮肉る方向の作品なんだけど、『ジョンウィック』はただその亡霊を亡霊として扱っている、いわばホラー映画だと思ったんだ」

ぢゅん「まあ思いっきり「ブギーマン」ゆってるしな」

ミノ「ふつうの人には見えないが、街にたくさん蔓延ってる彼ら、なんだよね」

相場「うーん、俺はホラーっていうか、ファンタジーだと思ったけどなあ。だって、ハリーポッターみたいじゃない?2と4i番線みたいな秘密の入り口がいっぱいあってさあ」

櫻丼「いや9と4分の3番線だからね。虚数を入れるな虚数を」

相場「あの武器ソムリエもハリーポッターに出てくる「杖選んでくれるおじさんの店」ぽかったよ」

ぢゅん「でも、ホラー映画だという見立てをするとさ、前回は日常の亀裂から異界が見えてしまうっていう正統派ホラーだけど、2のほうは、「昼間からお化けが出てきちゃうパターン」だよな」

ミノ「うん。呪怨メソッドだよ、呪怨メソッド。ふつうに昼間の教室で授業受けてて足元にお化けがいるタイプやつ」

相場「うわー俺が一番苦手なパターンのやつだあ」

櫻丼「ラストカットとかは結構クラシックにホラーだよな。あいつも!あいつも!っていう。マイケルジャクソンの『スリラー』かいっていう」

ぢゅん「続編は作られるのかな?さすがのジョンもこんなに敵が多くて生きのびられるのだろうか…」

相場「大丈夫だよ!ジョンウィックには「絶対に弾丸を通さないスーツ」っていうチート装備があるからね!」

櫻丼「同じ店が「どんなスーツも絶対に貫通させる弾丸」も売ってるってオチがありそうだよな」

相場「ヤクザな商売だねえ…」

ぢゅん「ほんとチートだよなあのスーツ…。あのスーツを着たジョンウィックはスターマリオとほぼ同価だからな」

ミノ「スターマリオがバイオハザードに参戦してるみたいな世界観あったよね」

相場「カッコ良ければそれでよしなんだよ〜!カッコいいアクションに対して臆さずに撮る勇気を感じたよ!弾のリロードとかいちいち凄くなかった?こともなげ感ありすぎてもはや銃の装填というよりシャーペンのシャー芯をカチカチ出してるぐらいの雰囲気しかなかった。実際にペンでも戦ってたけどさ」

ミノ「「ペンは剣よりも強し」の映像化に成功した瞬間な。俺的には駅ナカで周りに気付かれずに消音銃で勝負してるシーンがちょっとマヌケで面白かった」

櫻丼「あれは残尿感のある撃ち合いで面白かったよね」

相場「あとさ、ジョンウィックは銃の持ち方がなんか普通よりリーチが短い感じじゃん。それがまたプロっぽくてかっこいいんだよね。実際それが銃のワールドでプロっぽいのかどうかは知らないけどさ、あの、よくバンドとかで、ハードコア的なギタリストはストラップを長くしがちじゃん。長くすれば長くするほど見た目かっこいいんだけどさ、だからこそ逆にストラップをめっちゃ短くしてるギタリストって技巧派で渋い感じがするっていうか、なんか玄人受けな感じするじゃん?そういうギタリストって。だからジョンウィックもストラトを腹に乗せて弾いてる人感があるっていうか」

櫻丼「なんだそのぜんぜんピンとこない例え話は」

ぢゅん「ゲームっぽい、っていう意味ではミノは楽しめたんでしょ?」

ミノ「うんまあ、戦闘シーンのゲーム感は『アサシンクリード』を彷彿とさせたよね。でも俺の中での「テレビゲーム性の表現」っていうものの中には、その世界のどこかに絶対にバグの表現があるべきだと思うんだ。バグのないテレビゲームはないからね。だけど『ジョン・ウィック』の世界観にはバグがない。いや、ひょっとしてジョン自体がバグなのか?」

櫻丼「『ジョン・ウィック』の世界観にバグの観念を注入したら、それこそほとんど『マトリックス』に突入してしまいそうな気がするけどね…。3がどういう世界観の方向に進むのかは楽しみだね」

ぢゅん「あれ?そういえば、リーダーって今日なんで途中で離脱したんだっけ?」

相場「やべ、全然いないことに気づいてなかったわ」

櫻丼「ああ、なんかね、携帯の着信があって、「急用があるから」って横浜グランドインターコンチネンタルの方へ消えていったけど…」

ミノ「へえ、あの携帯って、鳴ることがあったんだ…」