嵐とみる『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』

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寝る子は搾取される

 

 

ミノ「ええと、まず今回、「全米が観なかった」ってふれこみがやばすぎて、一体どうなっちゃってんのかと思っていたけど……」

ぢゅん「そんな自虐的なキャッチコピーはなかったでしょ」

ミノ「ソフト化以降にじわじわと「実はそんなに悪い作品じゃなかった」とかって再評価されそう枠な映画だったよな」

櫻丼「予告ポスターとかで「えーっいまどき無邪気に正統派西部劇やるの」って不安を無駄に煽った感はある。
蓋を開けてみたら案外内省的な雰囲気だったというか、SWなのにノワール、って感じだったけど」

相場「画面の明るさもノワールでしたね…」

ぢゅん「スモーク焚きすぎなシューゲイズバンドのライブ会場か、ってぐらい何も見えなさあったよな…まあそれはそれで雰囲気はあったのかな…」

ミノ「話としては、宇宙のならず者たちを、独立独歩で生きるアウトローっていざという時頼りになってかっこいい!ってやるじゃなくて、「だってそういうことでしか生きられなかったんじゃん」っていう客観的な視点に立っているところは、最近の”ホワイトトラッシュ”ものの映画たちの流れにも共鳴するかなとは思った。
あくまで客観的な視点、であって、そっから「じゃあ俺たちが飢えていた時に大義は何をしていたか」みたいな政治批判的な視点に発展するわけじゃないんだけど」

櫻丼「そもそも、スターウォーズって単純に現実社会にはフィードバックできないような仕組みで作られているんだと思うんだ。
スターウォーズが出てきた頃の時代背景としてよく言われる話だけど、当時公民権運動が高まるにつれて、開拓者である白人を善玉に、先住民を悪玉にして一方的な勧善懲悪を描いたそれまでの西部劇的ヒーロー映画は衰退の一途を辿っていた。今で言うPC的にアウトってやつだな。
そこへきて、スターウォーズはちょっとした設定のトリックを使ってオールドファッションな英雄譚をハリウッドに大胆に復活させる。
すなわち、SW銀河には地球自体存在しないんで、ルークやハンソロは白人男性ではないってわけだし、SW銀河は既に広く開拓されているんで、そこには西部劇的ニューフロンティア思想も存在しないってわけだし、そこに描かれる戦争はあくまでSW銀河内の独自のルールで決められた「良い星人」と「悪い星人」の戦いってわけだから、地球における地政学的な善悪とはなんの関係もないと。
SW世界っていうのは素朴にヒーローものを描くためのPCプルーフ的な装置になってるんだよ」

ミノ「なんかところどころ超絶詭弁っぽいけど…」

櫻丼「まあ、こういう風にまとめるのはSWのヒットの要因をすべて”観客の秘められた保守的な英雄譚へのリビドー”に見出してるみたいで嫌だけどね」

相場「そうだよ!俺は別に英雄譚とかを求めてスターウォーズ見てないよ!!平べったいものが壁と壁の狭い隙間を通り抜ける瞬間だけを求めてスターウォーズ見てるよ!!!!」

ミノ「だけなんだ」

ぢゅん「しかし新シリーズの出演女優のインスタに嫌がらせしてる旧作ファンとか見ちゃうと、さもありなんって感はあるね…」

櫻丼「言いたかったのは、例えば解放を謳うドロイドが女性であることとか、コアクシウムを巡る途上国?途上惑星?の労働搾取だとか、そういう一見明らかっぽい描写でも「見立て」の有効範囲は案外狭いんじゃないかっていう。スターウォーズの場合は」

ぢゅん「そのまま現実世界の批判に落とし込もうとすると結構ずれがあるんじゃないかってことね。
それにしても、L3ってドロイド三原則が存在するとしたら確実にそれをぶち破るキャラクターだったね。スターウォーズに初めて人間の脅威になりそうなAIが出てきた気がする」

櫻丼「そういう言い方すると、L3の頭脳が搭載されたミレニアムファルコンが最終的にHALみたいなことになりそうでこわいだろ」

ミノ「ス…ケテ…タス…ケテ…」

櫻丼「やめて」

ぢゅん「あと、ドライデン・ヴォスのロビーで演奏されているバンド音楽(※1)の趣味が良かったってのが今回SW的に一番新しいポイントだと思った。あのエイリアン・コンテンポラリー・ジャズ的な音楽かっこよかったよね」

相場「え?それって今までのSW劇中歌はダサかったって意味?カンティナバンドをなめるんじゃないよ!」

ぢゅん「相場くんカンティーナバンド好きだよね」

相場「愉快な気持ちになるだろ!」

ミノ「音楽といば、インペリアルマーチが劇中歌として使われていたのは衝撃じゃなかった?あの有名な帝国のテーマ、SW世界内に存在している設定なのか!って。それに、帝国軍のリクルートCMにそれが使われてるってのが面白い」

ぢゅん「しかもあれってすごく似たようなのが実際、ディズニーランドのスターツアーズのロビーでも流れるんだよな。「君も帝国軍に入ろう!」てやつ」

櫻丼「てことは、あれは帝国軍がすごい作曲家に依頼してカッコいいイメージソングを作ってたってことになるわけだよね。そうなるとあのカッコいい軍服も銀河のヒューゴボス的なデザイナーに依頼してるんだろうなってなるし、そういうイメージ戦略への力の入れ方もすごく第三帝国的だよな」

ぢゅん「そんな組織に、ただ”生き延びるため”にハンが所属していたって設定はシビアだね」

ミノ「帝国軍の歩兵時代のハンの描写、実戦シーンで敵の姿を一切見せなかったのはうまいと思った。自分がどちら側で、何と戦っているのかが戦場の砂埃の中ではもはや曖昧だ。
自分の頭上に何の旗が掲げてあるのか、「見なければいい」と言ったのは『ローグワン』の主人公であるジンだったけど、ここでは、どこにいようと常に”近視眼的”に世界に対処していくというハンのキャラクターが世界観にうまく反映されていたと思う」

櫻丼「そういえば、『ローグワン』はキビシー話だったけど、クライマックスのシーンは綺麗で好きだったなあ。大義のための戦いが、限りなく私的な死の瞬間に向かって、夕暮れ時のような空に重なって溶けていくんだよな…。
逆に『ハンソロ』では、個人の戦いであったはずのものが大義の戦いに近づいてしまう、って流れがあった。「俺の戦い」が、いつのまにか大きなうねりに絡め取られていってしまうんだ」

ミノ「最初はキーラを救うために戦っていたのに、いつのまにか彼女はとんでもないやつの元に仕えていることになっちゃし…」

ぢゅん「キーラは先に大人になってしまったのに、ハンは彼女にずっと昔の面影を見ている、っていうのがなんか切なかったな。とうの昔に失われたものをずっと追い求めているような感じ」

ミノ「SWオタクもそうさ。とうの昔に失われたものをずっとSWに追い求めてしまうんだ」

櫻丼「なにその急な反省。ベケットも、ハンに若かりし日の自分を見ているところがあったんじゃないかな」

ミノ「ベケットとハンの最後のシーンは、ファンにはおなじみのHan Shoot First(※2)ネタを彷彿をとさせるね。
それだけじゃなく、そこには「撃つべきか、撃たざるべきか」という問いが挟まる隙間もなくて、ただ「撃つか、撃たないか」しかない、っていうこのシーンの性質が映画全体のトーンを特徴づけていると思った」

ぢゅん「確かにウディハレはいい役者だけどさ、ちょっと渋すぎてSWぽくない気はしたな」

櫻丼「そうかな、俺はこの映画はまさにSWだなーって思ったよ」

ぢゅん「ええ?だってライトセイバーバトルもないんだよ?」

相場「そもそも「SWらしさ」ってなに?!」

ぢゅん「それは始める前から泥沼化しそうな議題だからよそうぜ…」

ミノ「まあ無理くりライトセイバーバトルをぶっこんどけばあと二割り増しぐらいは客が呼べたのかもしれないな…だけどそれはキャスケネのやり方ではないんよ!」

櫻丼「キャスケネってキャスリーン・ケネディですか?」

ミノ「そうだよ!俺はキャスケネ推しだからな」

ぢゅん「ええーっ『フォースの覚醒』公開前は「あわれ…SWはもはや作品ではなくディズニーのマーチャンダイズとなってしまったのだ…」とか言ってアンチしてたじゃないの」

ミノ「あのね!掌ってのは返すためにあるんですよ!ていうかそれは今考えると完全に俺の読みが甘かったさ。キャスケネはもっと未来を見ていたんだよ。商品は売り切ったら終わりだ。そうではなく、キャスケネはSWを永遠のものとするために、SWをオープンソース化したのだ!!」

ぢゅん「げげっ…、ディズニーとオープンソースって対義語じゃねえの」

ミノ「いや…まあ聞いてよ。キャスケネはね、『最後のジェダイ』の時、「SWを作ろうとする人間は、自分の物語を語るよりない」って言ったのさ。SWとは一体何か、って答えはSWの中にはない、自分の心の中に見出すしかない、ってことですよ」

櫻丼「禅問答みたいだな」

ミノ「SWらしさをSWの中に探すのが間違いだとしたら、SWを描くにあたって全ての選択は私的な判断に基づかないといけない。ライアンジョンソンはそれをやったからキャスケネは評価してるんだと。
だからキャスケネの理想ってのは、どんどん新しい作家に、SWを素材にして自分の物語を語ってほしい、ってことなんじゃないかと思うんだ」

櫻丼「いやいや、騙されないぞ。今回だって「意見の相違」とかいって監督降板劇があったわけで、なんだかんだ実際はスタジオ側の要求と締め付けがそうとうあるんじゃないの〜〜??そうじゃなくても、相当システマチックに制作していると思うよ。ここまで大プロジェクトで監督の采配がどこまできいてんのかは単純に疑問だなあ」

ぢゅん「元々は『LEGOムービー』とか撮ってるフィルロードとクリストファーミラーで進めてたんだっけ?最終的にはロンハワードに変わったけど」

相場「その人たちのことよく知らないけど、多分俺は、ハンソロとチューバッカが一緒にシャワーを浴びるところだけその監督コンビが撮ったんじゃないか?って思う。なんかうまく言えないけど、あのシーンだけなんか、ぎょっとする気持ちになるんだよな…」

ミノ「まあ俺は根拠もなくこれからもキャスケネを信じて行くけど、一番良くないのは、SWって看板がデカすぎてこれから携わる人たちが萎縮してしまうことだと思うんだ。
今回も、コケたからもう続編はないかもみたいな噂がすぐにたったりしたけど、SWを「失敗できない作品」にはしないほうがいい。本当の意味でオープンソースになって、どんどん変な作品とか作られたらいいと思うんだよね。ホームズのパステーシュ作品みたいにさ。で、つまんないSWが出来たってそれはSWの看板を汚すことにはならないんだよ。
まあ夢みたいな話してるけどさ…」

リーダー「ゴっ…」

櫻丼「おっ…」

相場「いびきかあ」

リーダー「ゴゴっ…フォロロロ…ぐぅ」

ミノ「いや…まてよ、これはひょっとすると…ウーキー語かもしれない」

相場「…わかるのか?」

ミノ「ああ、少しだけなら」

櫻丼「いやなんでだよ。ていうかいびきだよ普通に」

ミノ「まって、よく聞くんだ…」

リーダー「グゥ…ゴゴっ…ふぉすぴぃぃ…」

ミノ「あ、これは「今日…オレ…タノシイ…飲ミ代…奢ル」っていってますね…」

櫻丼相場ぢゅん「やったー!!」

 

※1:https://www.youtube.com/watch?v=D6_GuAE8F78

※2:ハンが先に撃った – Wikipedia