嵐とみる『ゴースト・イン・ザ・シェル』

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ボイスメモに宿りしリーダーのゴースト。その不在は居酒屋嵐になにをもたらすのか。

ぢゅん「あれ?今日リーダーは?」

相場「うん、なんかね、今日はもう眠いからっていってこれを託して帰って行っていったよ」

櫻丼「なにこれ、ロボット…?」

ぢゅん「こ、これは…ママレード・ボーイのボイスメモ…」

ミノ「小学生の頃うちの姉ちゃんも持ってたわ。懐かしすぎるだろ」

相場「なんか、事前にメッセージが録音してあるんで、しかるべきタイミングで再生ボタンを押してくれれば自分も参加してるっぽくなるだろ、っていうことらしいよ」

櫻丼「そんなことでいいのかなあ…」

相場「というわけで今回リーダーはゴースト参加ということで」

ミノ「ゴースト・イン・ザ・シェルを観たあとだけに…」

櫻丼「この中にリーダーのゴーストが…聞こえるかリーダー!」

ボイスメモ『いいとも!!』

ぢゅん「リーダーのゴースト、随分容量のちいさいところに収まったな…。ところでゴースト・イン・ザ・シェル、俺は冒頭の映像だけで観た価値があったな。なんか90年代のミュージックビデオっぽくてわくわくした」

櫻丼「確かにぢゅんくん好きそう」

ぢゅん「ブレードランナーの影響っていうのはもちろん、俺はあのおちゃらかアジアンみはスクエアプッシャーのcome on my selectorとか、basement jaxxのNEVER SAY NEVERら辺の感覚だよねって思った。ルパートサンダース監督の手クセなのかはわからないけど、長編映画っていうよりミュージックビデオっぽさを感じるんだよな、全体のダイナミズムよりも15秒ごとに画のために作られてるっていう感じ」

ミノ「クラブ系の人好きそうなテイストだよね。少佐が見る記憶のバグの、グリッチ感とかもさ、妙な言い方だけど、アナログ感のあるというか、VHSとフロッピー時代のSF感」

ぢゅん「カルヴィン・ハリスも新作のmy wayのビデオがまさにグリッチアートをやっているんだけど、こういうディープウェブ趣味っぽいテイストが自然にメジャーに出てくるのは面白いなあと思う」

櫻丼「視界がグリッチする、っていうのは映像的に雄弁でいいと思ったよ。JJエイブラムスの『クローバーフィールド』を思い出した。あれのラストで、録画テープがあまって、怪獣が現れる以前の日付に録画した映像が出てくる、っていう仕掛けがあるでしょ。あの仕掛けはビデオテープっていう身体性を意識させるんだよ。制約されたリソース上に常に上書きされる記憶、っていう。ハンディカメラっていう身体性を持ったことで、ただの映像データじゃなくてひとつの記憶になった」

ぢゅん「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のawesome mixのカセットウォークマンもそれなんだよなあ。音楽が単なるデータじゃなく、あのウォークマンでしか再生できないっていうことが重要だったんだ。だから主人公は自分の身を危険にしても、母の記憶であるawesome mixを救い出す。それが再生するたびに傷つき、コピーできない身体を持った音楽だから」

相場「ゴーストは書き込み可能なモノに宿る?」

櫻丼「魂はハードに宿るか、ソフトに宿るかその両方か、って問題はいろんなSF作品でずっと繰り返されてるね。今回は、予期せずスカヨハの身体に宿ってしまったゴースト、という話だけど」

ぢゅん「スカジョハ!だけどね!」

櫻丼「ま、まあ配給もスカヨハ呼びだし、いいじゃないそこは…」

相場「LUCYとかアンダーザスキンとかherとかで鍛えられたスカヨハの身体を手放したり手に入れたりする力が今回もバッチリ発揮されていたね!!」

ぢゅん「でも、今回はwhitewashingだ、っていう観点から結構批判されたじゃない。最近でいうと『ドクターストレンジ』のエンシェント・ワン役とかもそう。アジア人の役を白人化してる」

櫻丼「まあ、俺的には、今回素子の役をヨハンソンが演じたことには意義がある、と感じた。っていうのは、さっきも言ったけど、映画では”予期せず”スカヨハモデルの身体に宿ってしまった全く別の人種・人格、っていうストーリーになっていて、ここは原作とは違うんだよね?」

ミノ「そんな、お前は当然原作知ってるよな的な目線送られても、実は俺も大元の漫画の方は読んでないんだよね…。少なくとも押井守の劇場版の少佐は、完全義体であることはスカヨハ版と一緒だけど、ある程度は自分で望んだ自分のボディっていう雰囲気ではあるな」

櫻丼「ハリウッド版の少佐は、ロボティクス企業のハンカ社のPRモデルとして生まれた。つまり彼女自身が企業コマーシャルである、っていうところがポイントだと思う。企業が打ち出す、画一的な美のモデルとしてのスカヨハ、っていう皮肉になっていると思ったんだ。あるひとつの究極の理想形を提示して、これが唯一の美しさであって、それに近付くためにはうちの商品を買うんですよ、とやる。美の多様性を謳うより、お金になるからね」

ミノ「現実にも、スカヨハにそっくりなアンドロイドもどきが個人によって作られたってニュースがあったからな。アンドロイドの理想形としてのスカヨハっていうのには妙に説得力がある。きっと今、初音ミクの役者版があったなら、それはスカヨハの似姿になるんだろうな、って気さえする…」

櫻丼「素子もその恋人も、全く別の容れ物に入ってしまって、だけどなお…っていうある種のグロテスクさを強調する意味でも、元の人種さえ違う、っていうのはアクセントになっているんじゃないかな」

ぢゅん「それでも、単純に白人女優のほうが客が呼べそうだとか、そういう理由だってないとは思えないし、手放しで「物語的に意味があるからオッケー」って言える問題でもないと思うんだよ」

相場「たけしは活躍してたよ!『戦場のメリークリスマス』から1ミリも滑舌が良くなってなくて安心した!」

ミノ「安心なんだ。しかしなぜか日本の観客も英語字幕に頼るというシュールなことになってた」

ぢゅん「「キツネを狩るのにウサギを寄越すな」って言うとこがかっこよかったけど、原作の荒巻もあんなにハードボイルドなの?」

ミノ「いや、もうちょい普通のおじさん」

相場「原作とは結構違うんだね。原作にあった哲学的なテーマがなくなってしまったってファンが怒ってる、っていうツイートを観たけど、オリジナル版を観てるミノからするとその辺はどうなの?」

ミノ「俺もオリジナル版好きだけど、ハリウッド版は攻殻の哲学をなくしてしまった、とは思わなかったよ。というか、語られないことと、描かれないってことは別物だと思う」

ぢゅん「語られてはいなくても、描かれていることもある?」

ミノ「元の攻殻は語りの映画で、単純にセリフの情報量が多かったし、テーマとする領域も広かった。さらに、意図的な引用の多用によって世界に奥行きを与えていた。ハリウッド版は全くこれと手法は違うんだけど、攻殻の根幹的なテーマ…というか、そう思われる部分、には別の角度から光をあててると思ったよ」

櫻丼「自己同一性への疑いとか、そういう部分?ハリウッド版の主軸になってるのはそこだよね。自分の連続性を担保するのは果たして「記憶」だけなのか?っていう問いを中心にやってる」

ミノ「うん、素子のアイデンティティの発見、っていうテーマは、オリジナル版よりだいぶシンプルで分かりやすい道すじになってると思う。その代わりにハリウッド版がひとひねり加えているのは、オリジナルキャラのオウレイ博士の存在なんだ」

相場「オウレイ博士って、ミラのことを「美しい子♡」って我が子のように溺愛していた人ね」

櫻丼「原作よりも、少佐のアンドロイドとしての生みの親、の存在を強調したわけだね。フランケンシュタイン博士とかみたいに…」

ぢゅん「美少女ロボを作る科学者っていうと、最近だと『エクスマキナ』のネイサンを思い出すかな」

ミノ「つまりオウレイ博士は「独身者」なんだ」

相場「え?そうだったんだっけ?いや、美人だなとは思ったけど、さすがに結婚指輪の有無までは見てなかったし…」

ミノ「ええっと、まずミッシェル・カルージュという人が書いた『独身者の機械』という本があるんだな。オリジナル版の攻殻、特に『イノセンス』がこの本にかなりインスパイアされているっていうのはファンには有名な話なんだ。でこの本自体は難解な文芸批評になってて正直俺にはさっぱりなんだけど、一方サブカル界隈では「独身者の機械」っていうワード自体がじゃっかん独り歩きして、独身者–っていうのは産めや増やせやのキリスト教的性愛の枠組みから逸脱した人、っていう広い意味–と、機械それ自体とのヴァーチャルな、そして多くは一方的な性愛…っていう構図に読み替えるのがちょっとした時代の気分になったんだよね。初音ミクとか、日本のデジタル萌え系美少女文化を読み解くのに親和性が高かったのもあって。というわけでハリウッド版の少佐は、コマーシャル製品として欲望される、という意味においても、独身者の機械的である、と言ってみることもできる」

櫻丼「独身者によって、魅力的な女性の鋳型に宿されてしまった霊感である素子…これってそのまま『未来のイヴ』にも繋がるよね?」

ぢゅん「それって小説だっけ」

ミノ「うん。『未来のイヴ』という古典的なSF小説では、現実の恋人に失望した男が、科学者に頼って機械仕掛けの完璧な女性、ハダリーを作る。ハダリーは機械の身体の内部に、それを理想的な女性にするための優美な仕草、声の抑揚などのいち女性の情報の全てをテキストとして書き込まれている。彼女は記録であり、記憶の装置だということもできる。で、『未来のイヴ』は『独身者の機械』の系譜に連なり、『イノセンス』の冒頭ではここから引用されたテキストが示される」

ぢゅん「なんだかぐるぐるしてきたな。つまりハリウッド版はストーリーを180度変えちゃってるようで、実は攻殻を飛び越えてその霊感の元である『未来のイヴ』を参照してたっていうことか…」

ミノ「ラストでクゼの誘いを断る少佐はオリジナルの真逆だけど、これを身体の重要性…身体がなければわたしは世界と関わることはできないし、世界と関わらなければすなわちわたしも存在しない…という主張ととるか、もっとあっけらかんとしたハリウッド的な人間賛歌ととるのかは、観る人次第かな」

櫻丼「どうかな…俺はまだそこまでこの映画のことを信用できないな…今時高いところに立ってモノローグする主人公〆を撮っちゃう人を信用できないな…」

相場「あとハードSFぶるにはクゼがエモすぎると思うな」

ぢゅん「だってマイケル・ピットだもん!そりゃエモいよ!」

ミノ「俺がオリジナル版と比べて不満に思うのは、脚本どうこうより、あの独特の静けさが受け継がれなかったところだな。たいていの映画は電脳世界とかインターネットを表現しようとすると、なんかスピーディでバチバチって感じにしたがるんだけど、俺はネットの”中”って、もっと深海みたいに静かなイメージなんだ。そこには時間も場所も存在していない、存在していないというより、一度に満遍なく存在している、のかもしれないけど」

ぢゅん「わからなくもないな。とりあえず音楽はエレクトロ系じゃなくてもうすこしアンビエントにしてもクールだったかもね」

相場「クールついでに刺身盛り合わせたのもうぜ!」

櫻丼「ええ?いいよ、会計高くなっちゃうよ」

相場「大丈夫、こういうときのためにリーダーがいるんだ。リーダー、今日の代金はリーダーのツケにしてもいいかな??」

ボイスメモ『いいとも!!』




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