嵐とみる『シュガー・ラッシュ:オンライン』

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プリンセスってなんですか?

 

 

櫻丼「やあミノ、観る前は「いやはや…ディズニーさんよ、遂に”インターネット”と題して来ましたか…今まで映画というメディアが描き出すことに失敗し続けたインターネットという概念の具現化…ディズニーさんのお手並み拝見といこうじゃないですか…」とかってめちゃめちゃイキってたけど結局どうでした?」

ミノ「いやそう改めて言われると非常に恥ずかしいんですけど、まあ正直今回全然そういうことじゃなかったよね…。てのは、この映画ってWWWの設計理念にはあんまり興味がなくって、あくまでその基盤の上にある社会的なネットワークという意味での”インターネット”にフォーカスしてたんだな」

ぢゅん「いま普通にインターネットって言ったらそうなるんじゃないの?それこそSNSとかyoutubeとかさ。むしろミノはそんなゴリゴリのwebシステムについてやると思ってたのか?」

ミノ「これがピクサー映画だったらそこをやったと思うんだよ。『インサイドヘッド』とか観てるとさ、あれってゴリゴリにメカニズムの話じゃん。ああいう風に、この世の全ての一般的な事象を還元主義的に分析/分解して行くところにエクスタシー感じてるんだと思ってんだよね、ピクサーは」

相場「シュガーラッシュは限りなくピクサーっぽいけど実質ピクサーじゃない、なんかこうカプコン製ゼルダの伝説的なやつだから」

ぢゅん「よくわからん」

櫻丼「うーん、しかしミノの話でいうとむしろ、結局そういう分析的なアプローチこそが、インターネットを描く時にその限界を決めてしまうんじゃないかって気がするな。『インサイドヘッド』の還元主義は分かりやすい例だけど、結局『モンスターズインク』とかにしたって、複雑な現実をいかに美しく線形な因果に解体するか、っていうところがあの辺のストーリーの脚本家の腕の見せ所になってると思うんだよね」

ぢゅん「それはピクサーに限らず、いわゆるハリウッド大作映画にはよくある傾向だと思うけどね、そういう因果関係がはっきりした脚本って」

櫻丼「でも、インターネットってシロモノはこういう「線形性」と食い合わせが悪いんじゃないかって、これは俺たちの経験則として感じるわけ」

ミノ「インターネットはもっとカオスだってこと?」

櫻丼「カオスなのもそうだけど、なんか単純に…”同時性”って言えばいいかな、全てのことが同時に作用してる、みたいな感覚があると思うんだけど」

ぢゅん「それって、マルチタスクをやってる状態のことかな」

櫻丼「今回の映画にしても、ラルフとヴァネロペがあっちの世界からこっちの世界……サイバースペース……に入ってきて、自分の行きたいサイト……例えばOH MY DISNEY……に、パケットに乗って移動する、みたいな表現をしてるけど、これは凄い高速である、って事を除けば現実で俺たちが電車に乗っていろんな場所にショッピングしに行ったりするってのとほぼ同じだから、見ていて理解しやすいって部分では良いよね。まずA駅に行って、それからB駅に移動する。シンプルだ。でもこれって実際的な”インターネット”のイメージとしてピンとくる?」

ぢゅん「うーん、確かにNetflix見ながらツイッターチェックしつつ調べものをググって、っていうのがスタンダードになってる日常のインターネットがある中で、”距離を伴って移動する”っていうイメージを採用しちゃったために、その辺の…全部のレイヤーが重なり合ってるような感覚は切り捨てられてる感はあるな」

リーダー「ボルヘスは言った、「すべてのものはすべてのものに接触している」と」

相場「えっ急になにこわいよ。いいよ寝てて。寝てな」

ミノ「映画的には、ラルフとヴァネロペは”あっち”から”こっち”に移動するっていうのが明確に描かれてて、つまり主人公たちには唯一性があって、あっちの世界とこっちの世界に同時には存在しない、っていう条件設定をしていることで、その辺をうまく回避しちゃってるよね」

櫻丼「あのさ、宮崎駿の『となりのトトロ』に「夢だけど、夢じゃなかった」って台詞があるじゃない。そのまま、夢であり、かつ夢ではない、っていう状態が同時に重なってるのがあの作品なんだよな。ああいう文系的霊感みたいなものこそ、実はインターネットっていうある種のオカルト的な現象について描くのにハマる表現なんじゃないかって気がしてるんだけど、逆に欧米の大作系はこの辺をさらっとやるのが苦手分野なのかもしれないな」

ミノ「そもそも多くの人がコンピュータ上に、あたかも距離があるように…つまりそこに空間のようなものがあるように”幻視”するようになった元凶は、「マウスをドラッグしてファイルをゴミ箱まで持っていく」っていう今や一般的になったGUIのあり方にあると思ってて、それを一般化したのはアップルのLisaで、そのアップルのジョブズが買収したのがピクサーで、それを傘下にしたのがディズニーで…ってつながりを考えていくと結構面白いよな」

相場「俺はまじでそんなことは本当にどうでもよくて、」

ぢゅん「あまりにもばっさりいくやん」

相場「そんなことよりさ、前作の『シュガーラッシュ 』で「僕は若く才能のある君が輝いているのを遠くから見守るだけで満足なんだよおじさん」としていい感じの終わり方をしたラルフが、今回急に「ただのめっちゃめんどくさいおじさん」化していたのがしんどすぎるんだよ!!まさかの主人公が悪役じゃん…」

ぢゅん「倒すべき悪は自分の中にある、っていうのはアナ雪でもやってる構造だけどな」

相場「はっ、つまりこの作品の真のプリンセスはラルフだったということ…?」

ぢゅん「まあ、確かに最後にドレス着てたけど…」

櫻丼「ディズニープリンセスも進化したな…」

相場「そうそう、今回は今までのディズニープリンセスが総出演するってところが前宣伝でも大フィーチャーされてたじゃん。しかしあれだけ豪華なメンツを揃えても実質ギャラはゼロなんだからやっぱりディズニーって凄いよなあ…」

ミノ「しかし今回出てくるディズニープリンセスたちって、彼女たちそのもの、っていうよりはいかにも同人誌的っていうか、n次創作的にパロディされたキャラって感じだったじゃない」

ぢゅん「まあ言ってみれば白雪姫とか眠り姫はそもそもが童話や民話や伝承のパロディでしょ」

櫻丼「ディズニープリンセスものの進化の歴史って、実は結構典型的な近代化のプロセスを辿っていると思うんだよね。まず、ステップ1は、『眠れる森の美女』とか『リトルマーメイド』とかの時代。これは昔話をしきたりや血統からの解放という意味でアップデートしていて、「呪術からの解放」のフェーズだよ。次に時代が進んでステップ2。ここでは、近年のディズニー映画を見れば明白なように、そうやって自分たちが作り上げた過去のディズニープリンセス像を自己再帰的に近代化するということをやっている。そして次のステップではもちろん、その自己再帰的に近代化したプリンセス像をさらにまた自己再帰的に近代化することになり…」

相場「無限ループこわい」

櫻丼「これを繰り返す中でディズニープリンセスは大きな枠組みから解放されていって、どんどん”個人”化されていったように思うんだ。逆に言えばそれは、「ディズニープリンセスってこういうものだよね」という、広く人々に共有される価値観を失っていってるってことだ。現実に照らし合わせて考えると、このまま価値観の多様化が加速していくと、次は…?」

ミノ「うーん、プリンセスのアイデンティティ・クライシスが起こると?」

櫻丼「近代化した社会で人々は、普遍的な社会の価値観が崩壊すると、近しい人からの承認に重きを置くようになる…これって今回のラルフの問題そのままじゃん」

相場「つまりラルフは現代のプリンセス問題を抱えてるってわけで、やっぱりラルフはプリンセスだったんd…」

ぢゅん「俺はそこまで大げさな視点では考えないなあ。この映画が発してるメッセージってもっと実質的なものじゃない?「自分の生きがいを他人に仮託するな」とか、「自分の夢のために友達と離れることは裏切りじゃない」とか、「おじさんがすごく少女に執着することはただただめちゃキモい」とかな…」

ミノ「ラルフとヴァネロペをそのまま”おじさんと少女”の表象として見ていいのかは迷うところだな」

櫻丼「まあ色んな立場に置き換えて見れるところも上手いんじゃない。「友達が海外留学に行ってしまう高校生」でも、「上京したい子供となかなか子離れできない親」でも、「推しコンテンツが時代に伴って作風変化するのについて行けないオタク」でも…」

ミノ「刺さるな…。あと、そのまま劇中で具体化されている「インターネットに無限に複製された自分のエゴを客観的に振り返りなさい」っていう至極まっとうなメッセージ性はターゲットのティーン層にとっても良い教訓になるんじゃないかな」

ぢゅん「「バズっていることと好かれていることは違う」っていうのもね」

相場「ラルフがBUZZTUBEでバズる場面って、現実にバズってるネット動画とかのあるあるネタになってるけど、改めて見るとすごい下らないよね!」

櫻丼「唐辛子食べて「からーーい!」とか、結局いつの時代も熱湯風呂的な笑いを人々は求めているのかもしれないな…」

ミノ「テレビがやらなくなってもネットで流行るっていうね。インターネットのポジティブな側面もちゃんと描かれていたよ、特にヴァネロペがシャンクへの恋?憧れ?によって文字通り”越境”しちゃうラストとかね。すべてのボーダーを越えられる、そう、インターネットならね」

ぢゅん「あと、離れていても繋がってるよ、っていうのはそのままインターネットのポジティブな側面でもあるよね」

櫻丼「ラストさ、単に主人公がなにか問題を克服したり解決したり倒したりしたってよりは、その問題自身と…孤独や寂しさと、共存して生きていくんだ、そうしなきゃならない、っていうのが今までの作品にあんまりなかったような独特の後味を残していたよな」

相場「うん、やはりラルフは次世代のプリンセスとしt…」

リーダー「えっ?!わたしがディズニープリンセス?!」

ぢゅん「言ってない、誰もそんなこと言ってないよ」

リーダー「そうなの?なんだよチクショー、がっかりしたなあ。起きて損したぜ」

櫻丼「むしろリーダーってディズニープリンセスになりたかったんですか?」

リーダー「いや、今まで思ったことなかったけど、なんか「そうじゃない」って言われると急に悔しい気がして…」

相場「大丈夫だよ!リーダーだって願えばプリンセスになれるよ!そういう時代だから!」

リーダー「まじか!わかった、俺、プリンセス目指して頑張るよ」

ミノ「いいけど、めんどくさいおじさんにだけはならないでね…」