嵐とみる『JOKER』

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ユア・ストーリー

 

櫻丼「で、ミノはどうだった?JOKER」

ミノ「櫻丼くんこそ、どうだったのよ」

櫻丼「それよりまずぢゅんくんの意見がききたいな」

ぢゅん「いやいやいや、俺はミノの感想が気になってて…」

相場「みんなどうしたの?なぜ誰も感想を言いたがらないの?」

ぢゅん「うーん…」

櫻丼「だってJOKERの感想を言うってことは、ただ感想を言うってことじゃないもの」

相場「え?」

櫻丼「いいか、これはテストなんだよ。ここで何を言うかによって、自分の所属するクラスとセンスと倫理観を試されることになるんだ。これは人類をクラスタに分断する装置なんだよ」

相場「ええ?なに言ってんの?ていうか、少なくとも俺はみんなをそんなことでジャッジしたりしないよ!」

櫻丼「・・・!」

ぢゅん「そ、そうだよな、相場くんの言う通りだ。だって俺たち、何年友達やってんだよ。ここで意見がすれ違ったところで、それは全てじゃない」

相場「映画の感想は映画の感想だよ。テストじゃないし、間違ったり、点数がつくものでもない。感想は自由だよ!」

櫻丼「相場くん!俺は目が覚めたよ!そうだ、映画の感想に間違いなんてないんだ!」

ミノ「そこまで言うなら相場くんの感想聞かせてよ」

相場「うん、そうだなあ…俺はジョーカーを見て…コンプレックスがあっても、それも自分の個性なんだって認めてあげることで自由になれるんだって勇気付けられたし、時には人目を気にせず、思い切り好きな服とメイクで自分を表現することで人は輝ける、っていう前向きなメッセージをもらいました」

ぢゅん「………」

ミノ「あれか?相場くんだけ『クイアアイ』観てたとかないよな」

相場「なんだよみんな!さっき感想に間違いはないって言ったろ!」

櫻丼「いやあるわ。ごめんやっぱあった」

相場「だって、輝いてたじゃん。ばりばりにキメて階段でダンスするアーサー、めっちゃ輝いてたじゃん!」

ぢゅん「それは確かに、輝いてたし、かっこよかったんだよな。本来あんなにかっこよくちゃいけないのに」

ミノ「でもジョーカーって元来”かっこいい”悪役でしょ?」

ぢゅん「ジョーカーみたいなタイプのヴィランがかっこよく描かれてきたのはさ、例えば世界征服を目論むだとか、スーパーヒーローに戦いを挑むみたいな、一応成し遂げるのに特殊な能力だったり巧妙な計略だったり地道な努力だったりが必要なスケールのでかい悪事をやるからじゃん。でもさ、アーサーのやった悪事っていうのは同じアパートのシングルマザーを付け狙うとか、ムカつく一般人を相手が油断している時に銃や刃物で殺すとかでしょ。それってやろうと思えば明日にでも誰にでもできるってとこが怖いよ」

櫻丼「だから本当はそんなことで輝いちゃいけないと」

ぢゅん「それでもあの瞬間のジョーカーは最高に輝いて見えたってことを俺は否定できない。まるでスターが誕生する瞬間に立ち会ったような高揚感を感じたこともね。それは映画に”しか”できないことかもしれない。ファブ5も救えない人生をどうする?セルフケアって言葉は「聖なる山でドラゴンが守っている宝玉」ぐらいのリアリティしかない世界で、なにが彼を輝かせる?」

相場「それが映画のマジック・・・?」

ミノ「しかもそこで流れる音楽がゲイリーグリッターの曲だっていうのは…なんていうか、すごく計算されたチョイスではあるんだよな、否定されるべき輝きを演出する音楽という意味で。あれはある意味「かっこいいと思ってはいけない音楽」なんだ。でもかっこいいんだよ」

ぢゅん「笑ってはいけないときに笑ってしまうように、言ってはいけないときに言ってはいけないことを大声で叫んでしまう映画だったのかもしれない」

櫻丼「それで「ペドファイルの犯罪者の音楽を使っている」って批判が起こったよね。その後、ゲイリーグリッターは楽曲の著作権を有してないから彼の元にお金が入ることはない、ってことが明らかになったけど」

ミノ「それで「ならよかった」って感じちゃった自分もなんか嫌だったっていう」

相場「でもそいつにお金入るよりは入らないほうがよかったじゃん」

ミノ「それはもちろんそう。でもさ、なんかそれだけじゃなくて「それなら自分が罪悪感を感じずにすむ」ってことにホッとしてたんだよな。正直、犯罪者にお金が入ることになってても俺は観たかもしんないし、いままでにも知らずに、もしくはあまり気にせずにそういうことがあったかもしれない。俺は映画を見ることで少しずつ罪を重ねているんだ、自分だけがキレイなままでいるってフリはできないって気がした」

櫻丼「ミノは極端なんだよな。そうだとしても、少しでもマシな地獄を目指していくのが大人の責任ってやつじゃない」

ミノ「俺はただ不安になったんだよ、俺は果たしてジャッジする立場にいるんだろうかって」

櫻丼「別に俺だっていつも、製作者の倫理観をジャッジするのを目的に映画を観るわけじゃない。でも今回に限って言えば、映画の側にも大人の責任を果たす必要はあるかもね。だってこの映画は「バットマン」って象徴を借りているんだから。その時点で、あらゆる国の、あらゆる人種の、あらゆるレイヤーの人々が見にくることが約束されるんだ。そうなった途端、俺の俺による俺の自由な物語を作るってわけには行かなくなるわけだろ、資本と引き換えにね」

ぢゅん「あらかじめ社会に与えるインパクトがでかいってわかっている作品だもんなあ。でも、そんなに社会的な映画には思えなかった」

ミノ「そう?俺は今回のジョーカーは、アメリカのイマジナリーフレンドとしてのジョーカーって感じがした。ていうか、ファイトクラブのタイラーみたいな。ほんとうは悪のカリスマなんていない。そこには暴力があっただけ。それを祭り上げただけ。ジョーカーの過去がミステリアスなのは、彼らが原因を見ようとしなかっただけ。なぜなら貧しいとか才能がないとか介護地獄とか病気もちの悲劇は凡庸でつまらないから」

ぢゅん「うーん、俺はむしろ、すごい個人的な感情についての映画だと思ったんだよね。個人的な怒りについての映画。たしかに社会的背景は描かれるんだけど、その社会自体を描くことにはあんまり興味がなさそうに見えたのね。でもアーサーの悲しみと怒りにだけは真摯に寄り添ってた。ていうかこの映画で真摯だったのはそこだけだったというか。アーサーの悲しみや怒りは相対化できない。それを測ることはできない、善でも悪でも」

櫻丼「それに、他の全てに関してはケムに巻くような構造になっているじゃない。映画全体が、おそらく意図的に、名作をオマージュしたツギハギっぽいところがある。まるで映画自体が、自らが古典であるように振る舞っているみたいなんだ。正体を見せずに、自分をそう欺いているような」

ミノ「ジョーカーの映画だと思って見ていたものが、別の誰かの物語だったかもしれない」

リーダー「君たちそうは言うけどね、君たちのその感想だって、”本当に自分のもの”だったと言えるのかい?」