デュン、デュデュン、デューン
相場「やっぱさ、本って厚いだけで風格があるじゃない。映画も、長ければ長いほど風格が出るんだよね」
ぢゅん「イキフンを出すための上映時間の長さだったということ…?」
ミノ「内容を語ることに180分必要なんじゃなくて、90分だと思って見るのと180分だと思って見るのとでは映画としてのジャンルの受け止め方が違ってくるからな」
櫻丼「確かにイキフンというか、世界観でねじ伏せる力が強かったかもしれない。理詰めでリアリティを出してるんじゃなくて。例えばブルースは目の周りをゴスロッカーみたいに黒く塗ってるんだけど、これは「マスクをかぶった時に目の周りが肌色だと浮いてしまうから」やってるって説明はできる。けど、理屈通り越して一種のフェチズムとして、塗りたくて塗っている、塗らずにはおられないので、っていう風にも見える。そういう鬱屈したリビドーの感覚を映画が持っているので、キャットウーマンの衣装が全身ラテックスで黒光りしていることにも、ゴッサムの街がずっと濡れていることにも必然性が出るんだな」
相場「でも、長いのは良いけど、そろそろ間に休憩挟む形式にしてくれないかな?映画館も。普通に健康に良くないと思う。あ、ブルースはすごくゴスだったよね。31で本当はバナナアンドストロベリーが食べたいのに「俺は闇だ…」という意識の高さからチョコレートしか頼めなそう。家もゴシックな城みたいでさ」
ぢゅん「だから今回のブルースウェインは裕福な実業家っていうより中世の貴族みたいで。世間との断絶され具合とか、「家名を汚す」みたいなプロットが入ってくるのもなんかそれっぽい」
ミノ「直接的にはゴスじゃないけど、NIRVANAの’Something In The Way’がブルースのテーマソングみたいに流れるのも陰鬱でよかったね。この曲って歌詞がすごくて、「動物は殺さない、でも魚は食べてもいいんだ、だってやつらには感情がないから」っていうヴァースから、コーラスで「Something in the way(何かがひっかかる)」っていうのを繰り替えす曲なんだよね。人間、生きていくには自分が搾取する側であることへの罪悪感への折り合いをつけて、というかなんとなく理屈をつけて飲み込んでいかないとならない時があると思うんだけど、それでも常に小骨のようなものがひっかかっている、っていう。なんかこのもやもやとしたところが、今回のブルースにも当てはまっている気がするな」
ぢゅん「音楽といえば、あのクラブでかかってる曲が本当にイケてるんだよ。Baauerとか、Peggy Gouとか流れてるんだよね。これって結構重要じゃないかな。映画のクラブでちゃんとリアルでイケてる曲がかかってるってこと本当に少ないからさ」
櫻丼「「欲望」の描写に気合入ってる映画だから、クラブ描写への解像度も高いのかもね。色んな欲深いおじさんも出てきて、悪いおじさん博覧会みたいなとこも面白いんだけど、特にピーターサースガードの汚職検事はなんか絶妙な塩梅の悪さで生々しくてよかったな」
相場「彼がリドラーに捕まるとこ怖かったなあ。リドラーの犯行シーンはすごくリアルで怖いんだよね。反対に漫画っぽく感じるシーンもあって。キャットウーマンとのラブラブシーンになると急にロマンチックな音楽流れるところとか漫画っぽかった」
ミノ「すごく形式的にやってる感じがあるよね。音楽の使い方もライトモチーフぽくて」
ぢゅん「でもセレーナの描き方は形式的すぎかなって感じしたかなあ。バットマンが暴走するセレーナを諭す、って描写も繰り返しあるとくどい」
櫻丼「孤独な人間同士の繋がりって感じで俺はよかったと思うよ。パティンソンバットマンからは一生彼女にチューできなさそうなとこがいいし。漫画的といえば、リドラーが警察に捕まったあと、ものものしくラテアートの「?」が映されるシーン良かったな。漫画のコマわりっぽくて」
相場「なんか、真顔でボケてるみたいなシーン多くなかった?笑うとこなんかな?みたいな。「U・R・L……」のとことかさ」
ぢゅん「ユー・アー・エル…あれ、そもそもアルフレッドが「怪しいラテン語ですが…」って言ってた時点でいや怪しくてはダメでは?って俺でも思ったもんな。結局ペンギンにボロクソ言われてて面白かったけど。ぼっちゃんはあんな感じで次回ジョーカーと対峙できるのだろうか」
ミノ「今までのバットマンはジョーカーとかに「俺とお前は結局バケモノ同士、コインの裏と表なのさ」みたいなことを言われてても、「まあ、せやな…」だったけど、パティンソンのバッツにそんなこと言われたら「なんでそんなこというの!ぼっちゃんは頑張ってるのに!!」って庇いたくなっちゃうもん」
櫻丼「でも急に床に白スプレーで相関図書きだすぼっちゃんを見てるとリドラーやジョーカーにお仲間認定されるのは然もありなんなんだよな」
相場「リドラー、途中まではバットマンもやってること変わらないじゃんって思えて。結局二人ともアウトロー的な方法で悪を裁いているわけでさ。でも、最後でリドラーが結局無差別テロみたいになっちゃうのは納得いかなかったなあ」
ぢゅん「いや、「悪を裁く」と言ってもルサンチマンにかられてやっている時点で結局こうなる、いくら仲間内で立派な理念を掲げていても外からみれば支離滅裂なテロにすぎない、っていう風に描くことで、改心したラストのバットマンの格の違いを見せているんじゃないのかなあ」
相場「いやそういうことじゃなくて、単純にさ、自分がリドラーだったら、みんな死んじゃったらつまんなくないですか?」
櫻丼「ん?」
相場「だからさ、折角長年費やした計画を成し遂げて、自分の名を知らしめて、いよいよこれから自分の信者になってくれる人もゴッサム市民に結構いそうな気配だったのに、そういう人までみんな死んじゃったらつまんなくない?崇めてくれるひとはいればいるほど良くないですか?より多くの人に自分の計画の凄さ認めてほしくないですか?」
ミノ「なんでそっち側に完全に感情移入した感想でてくるの」
櫻丼「でも、ポストトゥルースを経験したこの現実では、リドラーのように不都合な真実を暴いていく存在が市民の支持を得るのかっていうのも怪しく思えてしまう。むしろ、社会を正すことで居心地のいい嘘…逃避先であるドロップが無くなってしまうことのほうを恐れるかもしれないじゃない」
ぢゅん「絶望的だなあ。でもだからこそ、やっぱりラストの、文字通り地に足つけて地道に人助けすることでしか世界変えられん、っていう実直なメッセージ良いと思ったな。ともしびを持って人々を導いていく姿はアイコニックだった」
ミノ「劇中でアヴェマリアが頻繁に流れていたけど、俺あのシーンで『ファンタジア』に出てくるアヴェマリアのアニメーションを思い出したよ。救いを信じるひとたちが、赤く光る松明をもって暁の森の中を行進するっていう。スーパーヒーローものはタイムリーに現実を反映した社会派な作品も多い中、この映画は最後まで抽象的なところがあって、だからこそその暗さに沈殿していけるようなところがあった」
相場「アクションも抽象的だったけどね。あんま見えないっていう」
ぢゅん「それ抽象的っていうんかな。まあ、あんまり暗いのでリーダーは寝てしまってましたけどね」
リーダー「俺が睡眠しているのではない、俺が睡眠なのだ…」