『ララランド』によってめんどくさいおじさん化したミノ。居酒屋嵐に解散の危機がおとずれる。
相場 「ララランド それは夢 ララランド それは幻」
櫻丼 「…どうしたの?」
ミノ 「『ララランド』を観に行ってから、すべての会話を歌にするというのが相場くんの中だけで流行っているんだ」
相場 「だってすごく楽しいのさ 映画みたいに話すのは とっても楽しいな だからシネマっていうのかな?」
櫻丼 「なんか聞いたことあるフレーズだな」*1
ぢゅん 「そんなキッズの気持ち、痛いほど分かるわ。歌で気持ちを表現するってすごくセクシーなことよ」
櫻丼 「…どうしたの?」
ミノ 「ぢゅんくんは『ララランド』とは特に関係なく、「海外女性アーティストの違和感のある女言葉」の模倣をしてしゃべるのにはまっているんだ」
櫻丼「ああ、ぢゅんくん海外セレブのインタビュー記事好きだもんな」
ぢゅん 「ガールズたち、セクシーになるには知性が必要なの。だから簿記ができる女になりなさい」
櫻丼 「なんのアドバイス?あと海外セレブ「簿記」とかあんまり言わないと思う」
ぢゅん 「ソーリー、『ララランド』の話をするんだったわね。ハリウッドって最高にセクシーな場所だと思ったわ。いつか行ってみたいわ」
相場 「行ってみたいなララランド 家族で行こうララランド」
櫻丼 「スーパー銭湯みたいに言うんじゃないよ」
相場 「だってほんとに音楽っていいなーって思ったんだよ」
櫻丼 「それはよかったじゃん。ちなみにどの辺の音楽がいいなって思ったの?」
相場 「うーん、あの、大きなコンサートのシーンかな。やっぱりジョンレジェンドって、歌うまいな〜って思ったし、あのうにょうにょ〜ってキーボード、マジかっこよかったよな。マジ小室ゴズリングだった」
櫻丼 「あ、そこなんだ…」
相場 「あと、プールパーティみたいなところで、バンドが演奏していた曲もすごくいいなーって思ったよ。イントロがキャッチャーでさ」
櫻丼 「それはa-haの…ていうかあれだよね?悪意あるよね?もはや悪意しか感じないんだけど」
相場 「そんなことないよ。もちろん他の曲もよかったよ。シリオスターみたいな曲もよかったよ」
ぢゅん 「 City of Starsね。ほら、わたし、幼いころからミュージカルが大好きだったでしょ?」
櫻丼 「そうなん」
ぢゅん 「そう、あれは幼稚園の時。ある年の学芸会で、年長さんが『いばら姫』の劇をやったのね。色とりどりの綺麗な衣装を着て踊るみんなが、まるで妖精みたいって思った。スカートが翻ったあの瞬間の、あのグリーンの色味は、今でも忘れてないわ」
相場 「それってピッコロの肌の色みたいなグリーンだった?」
ぢゅん 「…そうとも言えるのかな…。とにかくその時からわたしは音楽やバレエや劇が大好き。『雨に唄えば』『巴里のアメリカ人』『ウェストサイドストーリー』『バンドワゴン』…色々見たわ」
相場 「元々ミュージカルが好きだったら、『ララランド』が人一倍楽しめるだろうなあ」
ぢゅん 「わたしも、きっとそうだろうと思って映画館に足を運んだわ。でも決めつけすぎていたのね。この映画がMGMの現代バージョンをやるんだって。でも『ラ・ラ・ランド』はなんていうか…”そういうことじゃなかった”っていう感じなの。だってわたし、フレッド・アステアの足さばきだったら、youtubeの最低画質で見たって、涙が出てくるわ。そう、ずっと思いこんでいたの、ミュージカルが”そういう”ものだって」
櫻丼 「ああ、俺も、冒頭はぐわーってテンション上がったし、感動して、なんならちょっと涙ちょちょぎれもしたけど、もっと音楽のパワーでねじ伏せてほしかったのに、なんか理屈っぽくてしらける部分はあったんだよな…撮影もわりと謎だし…」
相場 「いやいやまってまってまって!今、最初は確かに感動で涙ちょちょぎれた、って言いましたよね?!」
櫻丼 「うん」
相場 「それってすごいことじゃない?一瞬でもそんな気持ちになるって日常であんまりなくない?それを与えてくれた映画にまず感謝じゃない?リスペクトじゃない?その気持ち大事にしていくべきじゃない?良いところを褒めていくべきじゃない?それなのに、あらを探しては文句を言うことに必死でさ、そんなの素直な感想じゃなくてただの批評ゲームだよ。100ぶんの1でも、自分が誰かに感動を与えてから言ってほしいよ!!」
櫻丼 「確認だけど相場くんそれって簡潔に言うと死ねカスってこと?」
リーダー 「負のオーラが見える…」
ぢゅん 「わっ!びっくりした〜リーダー起きてるなら起きてるって言ってよ。思わず素に戻るだろ」
リーダー 「いやずっと起きてたけどね。しかしこのままでは、僕たちの間に亀裂が入ってしまう、そんなオーラが見えるんだ」
ぢゅん 「オーラ?」
櫻丼 「リーダーは前回ドクターストレンジを見てからニューエイジ哲学にはまっているんだ。オーラって単語は一旦飲み込むから話の続きを。」
リーダー 「うむ、実は『ララランド』を観ている時から、スクリーンからあふれでる禍々しいオーラがみんなの精神に影響を与えているのが俺には見えていたんだ。まあ、映画っていうのはつまるところ、光と音という物理的なエネルギーだな。つまり映画館というフィールドでは、俺たち自身が映画によって物質的にもわずかに変容することは避けられないのだ」
櫻丼 「『ララランド』を観たせいで俺たちの間に敵対するオーラが生まれたって言いたいのか?」
リーダー 「映画館では一種のシンクロシニティが起こる。今回はそれが悪い方向へ働いたんだ。Netflixやアマゾンプライムはこの効果を応用し…いわばインターネットに霊感が宿るのかという実験をしているのだが…それはまた別の話だ…」
相場 「やけに冷静だけどリーダーはその負のオーラで精神やられてないの?」
リーダー 「ああ、なんせおいらは半分寝ていたからな。それよりミノの心配をしたほうがいい」
ぢゅん 「そういえばミノ、今日は口数が少ないと思っていたんだけど…」
リーダー 「俺にははっきりと見える。ミノの背後に、「めんどくさいおじさん」のオーラが憑依しているのを…」
櫻丼 「め、めんどくさいおじさんのオーラ?」
ミノ 「そろそろ小生が一言申し上げてもいい頃合いですかな?」
ぢゅん 「大変だ!すでに口調がめんどくなっている!」
ミノ 「若者よ、めんどくさいって言葉は確かに便利だが、それはただの思考停止だとは思わないかい?」
相場 「うわあ、楽しい映画だったはずなのに、なんでみんな仲違いしたり、めんどくさいおじさんに憑かれたりしなきゃならないの?音楽は人の心を繋ぐはずなのに…」
ミノ 「ある意味、それは問いなのさ。「これは楽しい映画なはず」も「音楽は心を繋ぐものであるはず」も、空中に放たれた時点で問いかけになってしまう。そして問いは不安があるからこそ呼び起こされる」
ぢゅん 「でもさすがに、ミュージカルを観て、「音楽は人を分断する!」とは言えないでしょ」
ミノ 「果たしてそうかな。ララランドでは、ジャンルという壁がバベルの塔のごとく人を分断する様子が描かれていたとも言えないか?」
ぢゅん 「うーん、確かにセブの、自分の選んだ音楽以外への冷たさは感じたけど」
ミノ 「人が音楽を選んでいるんじゃない。音楽の側が人を選んでいる。「音楽の神に愛される」ことがあるなら、音楽の神が愛さないやつもいるということだ。音楽の神は選民主義なんだ」
櫻丼 「いやいや、確かに、俺が今からクラシックをやるために音大に入りたい!って思っても100%無理だっていうのは、それは分かるよ。それどころか、6歳以下までに音楽的教育を受けなかった人間のほとんどは無理だ。そう考えるとクラシックをやるっていうのはすごい特殊技能だし、特権的だよ。それでも、クラシックの曲を聴いて、感動を覚えることはあるし、それは他のジャンルでもそうだろ?聴衆にはなれるじゃない」
ミノ 「そうだとしても、監督のチャゼルはもともと、聴衆に対してまったく興味がないんだから。そこは『グランドピアノ』『セッション』『ララランド』でも一貫していると思うね。常に音楽を「やる」側の話であって、彼は「聴衆」のことなんか1ミリも気にかけてないよ」
相場 「セブも、バンドで売れて、あんなに多くのお客さんが楽しんでても、どうでも良さそうだったもんなあ」
ぢゅん 「ていうかあの、セブが加入したバンドさ、映画的に商業主義の虚しさをアピールしたいなら、もっとやり方があるようには思ったんだけど。ボーカルが実は口パク、とかさ。あそこまで人気が出るほどカッコいいのか、ミアに引かれるほどダサいのか、わかりずらいよ」
相場 「でもミアも、人のライブ見てあんなウンコ踏んだみたいな顔することないよな」
ミノ 「まあ、あのバンドがミアをがっかりさせるのは、音楽の質がどうこうとは関係なく、彼らが音楽をやるために、犠牲を払っていないからだ。つまりこの映画は、人生の全てを投げ打ってやらない芸術は、全部クソだって言ってるんだ」
櫻丼 「ええーっ、なんだその、マッチョ過ぎる考えは。ていうかそこはもう、チャゼル監督は、『セッション』で乗り越えたもんだと思っていたけど」
ミノ 「チャゼルの書く脚本の中で、絶対ミストーンしちゃいけないピアノとか、絶対崩してはいけないリズムとか、音楽が競技的目標をもっていた頃はまだ幸せだった。いわばチャゼル映画の青年期だ。だけど青年はやがて大人になって、ある日急にぽんと肩を叩かれる。「やあ君、ここからはなにをしたっていいんだぜ」…なにをしてもいい世界とは、無神論の世界、神に見捨てられた世界ということだ」
相場 「でも、選民主義の神様なんか最初からいないほうがいいのかもしれないじゃない」
ミノ 「神なき世界では人は、人の方を向いて音楽をやらなきゃならない。最近の若いミュージシャンはそろって「この曲でみんなを励ましたい」とか「応援したい」とか言うだろ。まるで音楽が、それ自体よりは幾分意味のあるメッセージを共有する道具でしかないかのように。音楽は人と人の間にしか存在しないかのように」
ぢゅん 「今時の若いもんは…の王道パターンだ。順調にめんどくさいぞ」
ミノ 「しかも簡単に「商業主義の何がわるい」と開き直る。”正直ベース”の神話がここまでもてはやされる時代はなかった。だから、もう一度戻ろうというのだ。音楽のために、狂気の天才が悪魔と契約する時代に」
相場 「それってまさか…厨二時代?」
ミノ 「そうだ。まさに厨二と呼ばれるものだ。人々が厨二と呼んで相手にしないもの、それを忘れることで物分かりが良くなったと言うためのものだ。なぜならそれは恥だから。ではなにが恥なのか。自分がついに悪魔に魂を引き渡す勇気がなかったことを恥ているのさ」
ぢゅん 「自分が恥じるのはいいけどさ、他の人にまで恥じろ!って言う筋合いはなくね?めんどくさい人は主語を大きくしがちなんだよ」
ミノ 「うむ、ぢゅんくん、それはひとつのぐぅ正論だな」
相場 「限界まで身をやつしたっていい曲がかけるようになるって保証はないでしょ?」
ミノ 「まあそんなのは実際賢明な選択じゃない。だけどそれを選択しなかった人間はいつまでも後ろ髪を引かれるんだ。それは神に選ばれなかった人間が高みに登る最後のチャンスだからな。それが狂気だ」
櫻丼 「セーヌ川に飛び込んだ、ミアのおばさんの歌で、「狂気」って言葉が唐突に出てくるんだよな。それまでのラブコメテイストが一転して」
ミノ 「酒に溺れて死んでいった叔母の、瞬きのような人生の輝き、空を捕らえたようなその精神について歌われる。大事なのは、ここで祝福され、乾杯されるのはただの「夢追い人」じゃないってことだ。あくまで、反逆者たち、狂気にかられた、壊れた心の、カオスを生み出す芸術家たちへ向けての乾杯なんだ」
相場 「そんなあ〜ただの夢追い人にも乾杯してあげてよ〜!」
ミノ 「ただの夢追い人の”夢”なんぞ所詮利己的な欲望にすぎないということだ」
櫻丼 「そこまで言ってる?!だったら監督だって、この作品自体だって、ある程度は業界と観客に媚びてるし、その結果アカデミー賞とかもらっちゃってるじゃん。ふつうに欲望叶えてるじゃん」
ミノ 「多分監督はそのことにぜんぜん納得してないだろうな。このままいくとそのうち、LAの地下道で壁面に自分の糞で絵を描いているホームレスの自由さに嫉妬してオスカー像で殴り殺すだろうな」
櫻丼 「やめてよ!絶対そんなことしないよ!」
相場 「でもなんとなくそうなってほしい気もするね!」
櫻丼 「相場くんなんなの急に!こわいよ!」
ミノ 「まあここまでの話は私の監督に対する願望でもあるわけなんだな」
ぢゅん 「そこまで欲望重ねられる監督すごいな…」
相場 「チャゼル監督はめんどくさい界のアイドルなんだね!!」
ぢゅん 「なんだかんだ言うけど、やっぱもっと単純に「音楽好き!ミュージカル映画作っちゃお!」的な動機から始まってる気はするんだよ。最後の、もう一度セブとミアが出会い直す夢シーンだって、「音楽がかかっている間は素敵な夢が見られる」的な、純粋に音楽の力を信じてないと撮れないシーンじゃない」
ミノ 「いや、あれは妄想とか夢ではない。あれは現実に起こっているのだ」
櫻丼 「ん?」
ミノ 「ミュージカルにおける音楽とは、時間と空間に働きかける「作用」だ。漫画における「コマ」と同様に。音楽は映画世界内の物理法則を歪めるのだ。ララランドは単にそれを利用している。ミュージカルで、歌にのって恋人たちが空に浮かぶ時、それはただ飛ぶような気持ちを表しているのではなく、本当に飛んでいるわけだ」
櫻丼 「まためんどくさいスイッチ押しちゃったようだな」
ミノ 「よく人がミュージカルを嫌う理由に、「死ぬ間際にあんなに長々と歌うなんてギャグだ」というのがいるが、あれは音楽の作用によって時間が引き伸ばされているだけなのだ。ララランドでいえば、例のシーンで、音楽は過去から現在に流れる連続したフィルムを折り曲げて繋ぐことができた。いわばワームホールの役割をしたんだ」
ぢゅん 「でも、ちゃんと最後は現実の夫がミアの隣に座っているじゃないか」
ミノ「 音楽も万能じゃない。その唯一の弱点は「終わりがある」ということだ」
相場 「終わったら元に戻ってるんだったらやっぱり夢を見ているのと同じことじゃないの。なんだよ!結局面倒臭く言っただけだろ!」
ミノ 「そうかもしれない、あるいはそうではないかもしれない」
ぢゅん 「ここへきて村上春樹的めんどくさみがきた」
相場 「ほんとうにイライラする」
櫻丼 「まずい、めったにイライラしない相場くんがこんなにイライラするとは。やはり俺たちの仲にはこのままヒビがはいってしまうのか」
リーダー 「諦めないで。ミノの心の中にはまだ善き部分が残っている。俺にはわかる」
相場 「いやもういいんだ。いいとかわるいとかじゃなく、俺は今のミノがすごく嫌だってことなんだ」
ミノ 「え…?」
相場 「ほんと、今のミノは嫌いだよ」
ミノ 「き、キライ…?」
櫻丼 「あ、なんかダメージを受けてる」
相場 「うん、冬場の静電気ぐらい嫌い」
リーダー 「それめっちゃ嫌いじゃん」
ぢゅん 「ちょっと、言い過ぎだよ…」
ミノ 「…」
ぢゅん 「ミノ…?」
ミノ 「…だ、だからなんだって言うの?!俺は別に相場くんが俺のこと嫌いでもそんなのほんとうにどうだっていいことだけどね!????」
ぢゅん 「…い、いつものミノだー!」
相場 「よかったー」
櫻丼 「よかったー」
リーダー 「結局めんどうくさいけどな」
*1)カバの出てくる映画館に通っている人にしかつたわらないやつ。
“嵐とみる『ラ・ラ・ランド』” への2件の返信
コメントは受け付けていません。