嵐とみる『オーシャンズ8』

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めんどくさくないことをめんどくさく


相場
「俺はね、すっかりエイターですよ」

櫻丼
「エイター??」

相場
「みんなはちがうの?オーシャンズ8、めっちゃアゲだったじゃん」

櫻丼
「オーシャンズ8がよかった人のことエイターって言うの?ほんとに?それ相場くんしか言ってないやつじゃなくて?てか、なんか紛らわしからやめてほしいな、主に世界線的な意味で…」

ぢゅん
「まじアゲでしたなー」

相場
「まじアゲでしたよー」

ミノ
「そこ通じ合っちゃったか…大体アゲってなんなのよ、具体的にいってよ」

相場
「アゲはアゲじゃん」

ぢゅん
「あのさ、アゲっていうのはヴァイブスが至ってるってことだから。つまり、ガチで最高のキャストたちがslayしてたってこと。わかるだろ?サンキューフジロック!」

ミノ
「面倒くさいからいちいち突っこまないぞ」

相場
「それで、みんなの推しは誰?」

ぢゅん
「あー、俺はね…」

相場
「俺の推しはね、ハッカーのナインボールね!」

ミノ
「ああ、キーボードのホイールのところをナインボールに改造してたの面白かったよな」

相場
「それだけじゃないのさ。ノートパソコンの蓋にいっぱい貼ってるステッカーもほぼナインボールモチーフだったの、気づいた?めっちゃ自分のHNを大事にしてるんだな、って感じがして好感もてました」

ミノ
でも自分のハッカーネームをリアル周囲に見せびらかして歩いてていいのか?セキュリティ的に…。あと、同僚の前で身内にあっさり本名ばらされるとこは可愛かったな」

櫻丼
「『フォースの覚醒』で見覚えがあるシーンですね」

ミノ
「あそこまでの悲壮感はないけど…」

ぢゅん
「それで俺の推しは…」

ミノ
「俺はコンスタンスが良かった。今までハリウッド映画に出てくるアジア系のメイン女キャラっていうと、”ドラゴンレディ”って形容されるタイプ…勝気で謎めいたファムファタルで…格闘技なんかもできて…みたいなステレオタイプの需要が多かったけど、コンスタンスのキャラはそんなの全然スルーだったでしょ。”そのためのアジア人”じゃない、ってとこがいいんじゃない」

ぢゅん
「うん、それにアミータにTinder教えてあげるところとかも可愛かったよね。それで、俺の推しは…」

櫻丼
「アミータといえば、俺は推すとしたら彼女かもしれない」

ミノ
「へえ、なんとなく櫻丼くんはデビー推しかと思ってたよ。リーダーだし」

リーダー
「リーダーは俺なんだけど…」

櫻丼
「今何か聞こえたか?いやね、ちょっと考えてみてたんだ。もし自分が8才の女の子だったら誰に憧れる?って。8才の俺は利発で真面目で、親や先生の言うことは良く聞く素直な子で、成績も良くて、将来は医者か学者になりたいと言ってる。優等生なだけでなく社交的で協調性があり友達も多いタイプだ」

ミノ
「完璧なのかよ」

櫻丼
「しかも察しがいい子だ。しばらくしたら、周りの「女子がガリ勉やってもね」って空気から進学塾に週5で通うのをやめるかもしれない。その代わりに友達とマックか居酒屋でバイトを始める。そこでも俺は真面目だから、日々接客の勉強をして精進するだろう。その内に接客を極めて、デパートとかホテルとかで働くようになっているかもしれない」

ぢゅん
「ああ、櫻丼くんホテルとか似合うわ」

櫻丼
「そんな真面目に働く女子である俺は、この映画を見て誰に憧れるだろうか?そこでちょっと不安しかになったんだ。デビーはチームに男を入れない理由を、「無視されるから」と言った。それなら俺は、デビーに無視される女の子なんじゃないか?デパートでカモにされるカウンターの女の子、あれが俺かもしれない。おかげで刑務所には入らずに済む人生を送れるが、時給15ドルでどこへもいけない」

ミノ
「”良い子は天国へ行ける、悪い女はどこへでも行ける”って言うけどさ、そもそも「良い子が天国に行けてない問題」ってあるよな」

櫻丼
「それで、俺は「8才の犯罪者を目指す女の子…」ってセリフに一瞬動揺してしまったんだけど、ただ、『オーシャンズ8』にはちゃんと優しいところがある。
“悪い女はどこへでも行ける”には既にロールモデルが存在していたじゃん。さっきミノの言ったドラゴンレディだったり、峰不二子だったりね。彼女らは自立していて、自信と能力があって自由な女性像ではあるけれど、同時にステレオタイプ的でもあったわけだ。
その点、『オーシャンズ8』はその”悪女”の描き方に多様性があったと思う。
特にタミーやアミータは一見保守的とも言えそうなタイプだけど、別に「バッドアス」のあり方はひとつじゃないんだ、って感じさせるキャラだ。
それにアミータはテイラースウィフトのファンなんだよ!攻撃的なパンクじゃなくてね」

ぢゅん
「そもそも、デビーとルーが彼女たちをリクルートしたのは、心意気をかってとか、志を同じくする同士だとかは全然関係なく、純粋に各々のスキルを見込んだからなんだよね。だから人間的にも色んなタイプが集まってる。
こういうチームものだと身体能力が高い人と、理系とかハッカー系の人が重宝されがちだけど、それ以外のブレインや調整役の役割がちゃんと描かれていたのはバランスがよかったと思うな」

ミノ
「そうそう、俺こういうチームものでのハッカーの活躍ってあんまり好きじゃないんだよ」

相場
「ええ!!!!」

ミノ
「いや、ナインボールが悪かったってわけじゃなくて、一般論なんだけど、基本的に映画に出てくるハッカーってみんなチートだとおもっちゃうんだよな。
もちろん現実にも堅牢なセキュリティを掻い潜っちゃうハッカーとか存在するのは知ってるし、別に凄腕ハッカーキャラにリアリティがないってわけじゃないんだけど。ただ、映画の上では、
ハッカー「カチャカチャカチャッターーン!監視カメラをハッキングしたぜ!」ていうのと、
ハッカー「カチャカチャカチャッターーン!だめだ、このファイヤーウォールは破れない!」っていうのは、もう、これはほぼ一緒のことなんだよ」

相場
「え?一緒じゃなくない?ちがくない?」

ミノ
「いや、結局どっちでもいいわけだよ、つまり、”ハッカーが言えばそうなる”ってだけで、見ている人も、誰もそれに疑念を挟めない。これって作劇上のチートだろ。こっちは「そうなんだー」って飲み込むしかできないんで、だからハッカーが活躍すると面白みがないんだよ」

相場
「でも、ナインボールが凄いのは通信とかのハッキングだけじゃなくて、絶妙に信ぴょう性があるセンスで犬愛好会のフライヤーを作る能力も飛び抜けてるから!!」

ぢゅん
「あれはマジモン感がすごかったよな。犬おじさんも騙されるよあれは。あ、そういえば犬おじさんがゴミ箱の上でパン食べているところに俺はグッと来たな。ああいう細かい描写ちゃんとやる映画はいいよ、性格描写にも繋がるしね」

相場
「犬おじさんもキャラ立ってたね。俺今までのオーシャンズシリーズって正直登場キャラが多すぎて途中で「この人なんのためにいる人だっけ?」ってなっちゃうこと結構あったんだけど、今回はみんな役割が分かりやすくてよかった。チームに「デザイナー」がいるのも新鮮だったし。アートのスキルも強盗に役立つことがあるんだ!」

ミノ
「俺さ、ちょっと疑問なんだけど、デザイナーのローズは結局、単にアナウィンターに顔が効くってのと、今は落ち目で金がないからっていうので都合が良かったからリクルートされただけなの?それとも、今は時代が悪いだけで、本当は優れたデザイナーだから、っていう才能を見込まれて白羽の矢が立ったの?」

ぢゅん
「それは、両方なんでない?そりゃデザイナーとしても能力が高くないと困るよね、実際メットガラで着るドレス作んなきゃいけないんだから」

ミノ
「だよな?デフネと世間が納得するレベルのドレスを作るのも重要な計画のひとつなんだよな?俺、ファッションに疎いからそこがピンとこなくてさ。確かにメットガラ本番のシーンでデフネのピンクのドレスを見たら、ローズは綺麗なドレスを作ったんだなーとは思ったけど」

相場
「うん、綺麗だなーと思ったんでしょ?だからそれでよくない?

ミノ
「でもそれは俺という素人の感想にすぎないじゃん?俺はそんなの求めてないもん。そうじゃなくて、あのドレスが「メットガラにおいて正解である」という論理的根拠が欲しいんだもん」

ぢゅん
「は?????????」

ミノ
「その説明がないってのは、俺にとっては、『ミッションインポッシブル』でベンジーが「これはなんかいい感じで全部問題を解決してくれるいい感じの道具だから」ってガジェット渡してくるみたいなもんだから。嘘でもいいから”仕組み”の説明が欲しいんだよ。それに俺、『bounce』読むのが好きだったの。タワレコに入り口のとこに置いてあるフリーペーパー。知ってる?」

櫻丼
「急に何の話が始まったんだ」

ミノ
「『bounce』にはその月発売されるレコードのレビューがぎっしり載ってるわけ。新譜の情報だけじゃなくて、そのレコードが影響を受けたであろうアーティストのピープルツリーが体系的に紹介されていたり。俺は正直実際に音楽を聴くよりそれを読む方が好きだったの。まあ、音楽でもなんでも、アートの楽しみ方って、考えるな、感じろ、って側面と、「レビュー」って側面があるだろ。で、メットガラはもろ「レビュー」側だと思うわけ。メットガラにどういう服を着ていくかってのは、ファッションの歴史的なコンテキストの上で、提示されたテーマをどう解釈するかっていう、バキバキに文学性を問われるゲームじゃん」

櫻丼
「ゲームなんかな」

ミノ
「そこのヒリヒリ感をもっと感じたかったな」

ぢゅん
「でもあの辺は映画を超えて”ここからはショーをお楽しみください”ってのを意図的にやってると思ったけどな。オーシャンズの面々がドレスアップして階段を降りてくるショットのドヤ感なんて、「あーやるべきことわかってる映画だー」って感じしたよ。そういえば、今回ソダーバーグじゃないんだよね」

櫻丼
「結末のお楽しみ二重底感とか、ソダーバーグの手クセかな?って思ったけど、実はゲイリーロスなんだよね。オーシャンズシリーズ、これからいろんな監督といろんなキャストで作られる未来があってもいい気がするな」

ミノ
「続編あったら、ソノヤミズノとかも出て欲しいな、もちろんダンサー役で・・・。妄想膨らむよね。オーシャンズドラフト会議で夜を明かせるな」

ぢゅん
「日本版作るっていうのもアリだしね。Huluとかで」

相場
「日本版はやっぱり、ベストジーニスト賞の会場で米倉涼子が着用する激レアビンテージジーンズとか狙うのかな?」

櫻丼
「スケール感が……いやいいんだけど」

ぢゅん
「ところでだ、俺の推しは…、ねえ、聞いてる?みんな、俺が誰推しか興味ないの?」

リーダー
「俺はあるよ…」

ぢゅん
「リーダー!!」

リーダー
「俺が聞くよぢゅんくん」

ぢゅん
「ありがとうリーダー!!実は俺の推しは…」

リーダー
「……ふむ、そうだったのか。わかったよ、安心しろぢゅんくん。俺が墓場まで持っていってやるさ……」